エンターテイメントは歓待。小難しい理屈、いわゆる文脈なしに楽しめるもの。
- 楽しい曲だな
- キラキラしたメロディだな
- 素敵な歌詞だな
といった、背景知識を要求しない、本能部分に快感を呼び起こすものが該当です。
対し、芸術は文脈に依存して、理性と本能の両方に働きかけるエンターテインメントだと思います。
概して、名作とされるものほど、
- どう楽しめばいいのかな?
- メロディが地味だなあ
- 歌詞がわかりにくいなあ
といったものになりがちです。
これは、
- エンターテイメントとしてのわかりやすさよりも文脈性を優先しているため
- しかも、新しい文脈を定義するものが必ずしもわかりやすいものとは限らない
といったところに理由があるのではと思います。
しかしこれでは、「分かる人」(=文脈を共有している人)にしか価値がわかりません。
ゆえに、玄人向けでないHipHopのクラブイベントで、名作中の名作であるNasのNY state of mindをかけても、大して盛り上がらない、ということが起きるわけです。
そこでクラブDJがとる選択肢は、
- エンターテイメントに振り切る
- 芸術に振り切る
- 両者の間を取る
の3つに分けられます。
特にHipHopに関して言えば、エンターテイメント性に振り切るとセルアウトまたはワックと呼ばれ、公然と批判されることもありますから、エンターテイメントに振り切る選択はシビアかもしれません。
そこでセルアウトやワックといった形容に対して、ポジティブな意味での形容に「Hard Core」や「Ill」、「Dope」といった言葉があります。しかしそれもやり過ぎると、つまり2番目の選択肢をとると、一般の聞き手は離れます。
そこで何割かのクラブDJは、3つ目の選択肢をとることになります。そうしたDJは、家でレコードを選ぶ時からブースでプレイする時まで、芸術性とエンターテイメント性の狭間で厳しい判断を迫られるのです。
しかし芸術性とエンターテイメント性を絶妙なバランスで両立させられるDJこそが、様々なオーディエンスの期待に応えられる一流のDJだと思うので、そうした方々に恥ずかしくないようなプレイを心がけています。